昔住んでいた家の近所に、猫を飼っている男性がいました。
その男性はその数年前に奥さんと娘さんを事故で亡くし、今は猫との二人(?)暮らしをしているそうです。
聞いた話では、その男性は家族を亡くした後、かなりふさぎ込んでいたそうですが、その時にその猫がやって来て、以来その猫を飼っているそうです。
その男性は自宅で仕事をしている(作家さんか何かだったと思いますが)ので、いつも猫と一緒にいました。
時折、その猫と遊ぶ機会もあったのですが、大抵は男性のそばを離れようとはしませんでした。
その猫にはある特徴がありました。
鳴き声が変わっていたのです。
近所の飼い猫や野良猫とは違った鳴き声をしていたので、遠くにいても鳴き声だけでその猫がいる場所がわかるほどでした。
男性にとっては常に一緒にいるのであまり意味はなかったそうですが。
それから月日が経ったある日、ふとその男性の家を訪ねてみると、庭で男性が作業をしていました。
草むしりかと思いましたが、どうやら違うようです。
こぢんまりとした石の置物のような物と、花が供えられていました。
それを見て、それがお墓であることを想像しました。
男性に挨拶をすると、それがあの猫のお墓だというのです。
今朝、死んでいるのを発見したそうです。
男性は話し始めます。
昨日、夢に妻と娘が出てきてね、
私にこう言ったんだ『もう寂しくないよね、もう大丈夫だよね』と。
『猫ちゃんはもう疲れたから、休ませてあげようね』と言って、二人は消えてしまったよ。
起きたら、猫はもう冷たくなっていたよ。
と言いながら、お墓の前にいつも猫と遊ぶときに使っていた玩具を供え、手を合わせていました。
私も一緒に手を合わせます。
男性はこの子は、妻と娘が連れてきてくれたんだな。
ふさぎ込んでいた私のために。
と話したあと、お墓に向かって感謝を述べてから男性は家の中へ入って行きました。
私も、ちょっとしてから自宅に帰りました。
ふと気になって振り向くと、どこからか猫の鳴き声が響きました。
あの猫と同じ、変わった鳴き声をしていました。