私の実家はそこまで暑い地方ではないとは言え、夏場には扇風機やクーラーを使用します。
飼っていた猫は、クーラーよりも扇風機の方が好みだったように思います。
実際に私たちと一緒に扇風機で涼むことが多く、クーラーをつけていても扇風機の方にばかり注意を向けていました。
私たちが扇風機を使っていると、どこからともなくやって来ては扇風機の風に当たろうとするのです。
首を振っているときには最も傑作で、扇風機の首の動きにあわせて猫の首も動くのです。
それが原因で扇風機に手を出したら危ないなと思っていましたが、結局最後まで扇風機に対して猫パンチを繰り出すことはありませんでした。
扇風機の首が止まっている時には猫もじっとしていて、その最中に首を動かしてみると一瞬驚いた仕草をした後にいつもどおりに扇風機の首の動きにあわせて猫も首を動かしていました。
そして再び首の回転を止めると、猫も動きを止めるのです。
驚いたことが一つあります。
ある日、学校から帰ると扇風機が動いているのに誰もいなかったのです。
誰かがつけっぱなしでどこかに行ったのかとも思いましたが、その時家にいた家族の誰も扇風機を使っていないと証言したのです。
勝手に動くはずもないしな、と思いながら扇風機を一旦止め、荷物の整理をしていました。
するとどこからともなく猫が現れて、扇風機に向かって歩き始めました。
そして、扇風機の足元のボタンを「たしたし」と叩いて、とうとう扇風機が動き始めました。
しかしながら、扇風機の首の向きはまっすぐになっていて、猫の位置までは風が当たっていませんでした。
どうしようもないと思ったのか、猫は私のほうに向かって一言「にゃー」と鳴き、じーっとこちらを見ていました。
おそらく、首の向きを下に向けて欲しいと懇願していたのでしょう。
その意を汲んで私が扇風機の首の向きを変えると、猫は満足そうに目を細めて扇風機の風に当たっていました。