ある町には、道案内をしてくれる猫がいるという話です。
その町は少し変わった構造をしていて、外から来た人はすぐに道に迷ってしまうそうです。
この話をしてくれた友人も、届け物をするためにその町を訪れたそうですが、迷いやすいと聞いていた故に用意していた地図を道中で落としてしまい、見事に道に迷ってしまったそうです。
時間は昼間なのに、太陽の位置から方角を把握することすら出来ませんでした。
人通りも無く、道を尋ねることすら出来ませんでした。
途方にくれた友人は、偶然見つけた広場で一休みすることにしました。
昼食は届け先で頂くことになっていたので、まともな食料は持っていませんでした。
持っていたのは、おやつにと思って持参していた煮干しだけです。
煮干でお腹は膨れませんが、何も口に入れないよりはマシだろうと、友人は一人寂しく煮干しを噛み始めました。
そこに、一匹の白猫がやって来ました。
友人の近くまでやって来た猫は小さな声で一鳴きしたあと、友人のことをじっと見ていました。
少し違いますね、どうやら見ていたのは友人が持っていた「煮干し」だったようです。
人恋しかった友人はその白猫に煮干しをあげることにしました。
白猫は満足そうに煮干しを食べ始めます。
休憩も十分だし、白猫に分けたせいで煮干しも無くなったので、友人は休憩を終えて立ち上がりました。
すると、その白猫はどこかに向かって歩き始めました。
「どうせなら、猫に着いて行ってみようか」と考えた友人は、その白猫を追いかけることにしました。
ゆっくりと歩く白猫を見失うことなく友人は白猫の後を着いて行きました。
ところが、ある曲がり角を曲がったところで白猫を見失ってしまいました。
友人は「また一人ぼっちか」と思いながら周囲を見渡すと、見知った顔を発見します。
それは、届け物を渡す知人でした。
友人の到着が遅いことを心配した知人が、付近を探しに行こうと家を出ようとしたところでした。
友人はほっと胸をなでおろし、知人に遅くなったことを詫びました。
知人の家で少し遅い昼食を食べている最中、煮干しを上げた白猫の話をしました。
その猫に着いて行ったらここまでたどり着けたことを含めて。
するとその知人は、
「このあたりでは有名な話さ。その白猫は、町の外から来た人間が道に迷っていると、どこからか現れて目的地まで道案内してくれるんだ。確か、煮干しが好物だって聞いたことがあるなぁ。」
と話しました。
もし、煮干しを持っていなかったらどうなっていたのだろう、と思いながら、友人は昼食を食べ終わりました。
帰りの道では白猫には会えなかったそうです。
知人から帰り道を教えてもらい、迷わず帰れたからです。